今日は、雑感を書きたいと思います。
それは、大学生奨学金をはじめとする、「奨学金」についてです。
先日、大学生奨学金指定でご寄付のお申し出がありました。
八王子つばめ塾の大学生奨学金とは、「月額2万円を最高額とする支給型(返済不要)の奨学金」と「つばめ塾でボランティア講師をしていただく」ことがセットになっております。ただし、奨学金とボランティア講師の関係はイコールではありません。イコールになると「労働」になってしまいますので。(講師はあくまで本人の自発によるという意味です。)

さて、どうして奨学金にこだわるかというと、それは私が大学進学の際にとても苦労したからです。高校3年生の時には学費(当時は月額1万1千円)が払えず、通っていた都立高校を危うくやめさせられそうになって奨学金を借りて学費を支払ったり、父親に大学進学に反対されたり。いろいろありましたが、母方の祖父母が大学進学の費用を出してくれたおかげで念願の「社会科の教師」になることができました。

今思えば、とてもラッキーなことでした。今つばめ塾に来るご家庭の中には、「この子が高校卒業したら、その上の学校に進学するお金を出す余裕は全くありません。」という方もいらっしゃいます。経済的な苦労は、私の高校生時代も、このご家庭と大して違わないと思います。しかし決定的に違うのは、進学費用を出してくれる親戚がいるか、いないかです。私は運よく出してくれる人がいた。この子のご家庭には誰もいない。この差は一体何でしょうか?それは生まれた家が違うという1点だけです。それでいいのだろうか?といつも思うのです。私はたまたま祖父母が出してくれました。それで夢を叶えられた。その子の前をそのまま素通りするわけにはいきません。その子のために、学費は肩代わりできないけど、何か応援しなければという「思い」が私の毎日のつばめ塾活動の原動力の源です。

ですから、大学生奨学金を理解して下さり、寄付を申し出て下さることは、本当に有難いことです。

八王子つばめ塾が持つ奨学金制度のうち、大学生奨学金が初めでした。4年ほど前、予算書を作る中で当時の杉浦理事が「小宮理事長、今年の寄付金を、昨年とほぼ同額とすると、月1万円の奨学金を捻出したら、他の予算はほとんど付けられません。奨学金は削りますか?」と言われました。しかし私は「奨学金はせっかく創設したので、他の予算を削ってでも、一応いれておきましょう、これが希望につながるので。」と答えました。その年から、寄付金が増えて、月2万円の大学生の奨学生を1人支給できることになったのです。あのころが本当に懐かしく思い出されます。今では、月2万円の学生が3人も受けられるまでになりました。寄付者のみなさまに本当に感謝です。

支給型奨学金にこだわる理由が二つあります。一つ目に、ある程度の余裕がないと、ボランティアすることはできないということです。私が大学生の時に色々ボランティアをしましたが、それは祖父母が学費を出してくれたので、学費支払いのために毎日必死にバイトをしなくてもいいということがありました。そのおかげでいろんな経験ができ、視野も広がりました。そう考えると、奨学金を支給して、学業に少しでも集中し、かつボランティアをしてもらおうという狙いがあるのです。
二つ目に、現在の日本の奨学金は所詮は「借金」であるということです。私も4年間で225万円借りました。もちろん、稼ぐ能力のない人間に無利子で225万円貸してくれるところなど、どこにもありません。だから感謝はしています。しかし、24歳から39歳まで15年間、毎月1万2533円ずつの借金返済は決して楽ではありませんでした。なので、「経済的に苦しい家庭には、毎月2千円でも3千円でもいい、返さなくていいお金が必要なんだ」というのが私の信念です。

先日、高校生クラスの授業の後、塾生と雑談をしていて、「うちには、大学生奨学金制度もあるから、ボランティアできるようなら戻っておいで!!」と笑顔で話していました。しかし、その一方で、今年は大学受験の高校生も増えたので、「生徒全員が希望したら、支給できるのだろうか?もちろん預金はあるので、取り崩せば何とかなるが、いつまでもつだろうか?」など、色々考えこんでしまいました。しかし、つばめ塾の塾生には、「つばめ塾出身の先輩が大学で頑張ってる」姿を見ることが良い刺激やロールモデルとなると信じています。また、経済的に苦労した先輩が、似たような境遇の後輩に寄り添って面倒見ることも、人材育成の面で必要だと固く信じています。
ですので、大学生奨学金指定のご寄付のメールが来た時には、高校生の顔が目に浮かんで、思わず泣いてしまいました。つばめ塾やってて、泣くことは滅多にないんですが、さすがにこの時ばかりは「これであの子たちを応援できる」と思い、泣きました。

つばめ塾の奨学金は、現金のバラマキではありません。生徒に勉強のスタートラインに立ってもらうためのものです。スタートラインに立った後は、自分で走る(努力する)ほかありませんが、経済的に困窮してそのラインに立つことすらできないのは、社会全体で何とかすべきだと思います。中学3年生の7割が塾に通い、高校の卒業生の84%が専門、短大、四大のどれかに進学する東京にあって、塾に通わない、進学しない方がマイノリティなのです。(高校卒業生の進学問題は色々ありますが、ここでは一旦置いておきます。)

しかし、ここまで信用して寄付をくださるのは、私に対する信用ではなく、ボランティア講師のみなさんが真剣に中学生、高校生に向き合ってくれるからに他なりません。多くのボランティア講師の方と一緒に、私も「生徒がスタートラインに立てること」と、「走り出したあとのサポート」に尽力したいと思っております。

理事長 小宮位之