あけましておめでとうございます。

2023年の年頭にあたり、私が思うことを書いてみたいと思います。

年頭にあたって、最初に思い浮かんだのが、「初心を忘れずに。」でした。
では、つばめ塾にとって、初心とはいつ頃思ったことなんだろうと思うと、2つ思い出します。

1つ目は、つばめ塾を設立した日。学習支援のスタートはもちろんなのですが、他にもあって、「全国に無料塾を広めたい」と、「返済不要の奨学金を作りたい」でした。しかし奨学金に関しては、一介のサラリーマンが、そんなもの作れるわけがないと思い、2年ほど誰にも話したことはありませんでした。あまりにも荒唐無稽だと思われると考えたからでした。しかし2年後、つまりNPO法人設立の1年後、次年度予算を立てるときに、当時の杉浦理事から「来年の予算はどうしますか?」と聞かれ、「大学生奨学金を作りたい。月額1万円、返済不要のです。」と言いました。理事は唖然としました。「理事長、お気持ちはわかりますが、年間14万円ほどしか寄付金のない団体が、12万円の奨学金を作るというのは、どう予算を立てたらいいのでしょう?」と言われたのです。
その時の返答がめちゃくちゃでした。「奨学金12万円、その他の経費が2万円。参考書は古本屋で買ってきましょう。来ても来なくても、制度を作ることが大事です。」とてもNPO法人の理事長の発言とは思えません(笑)
で、結局その年は誰も応募がありませんでした。ところが、「瓢箪から駒」とはこのことで、「子どもたちのために、どうぞ寄付金を使ってもらいたい。」という方が現れたのです。年間100万円近くの寄付を下さいました。そこで私は「この寄付金は、中学生の交通費および、大学生の奨学金に使わせてもらいたい。」と申し上げたところ、「使途は事務局長に任せます。」と快諾してくださり、翌年に奨学金がスタートしたのです。やはり、理想は言葉にしなくては実現しませんね。実感した出来事です。

2つ目は、宿直室で感じたことです。つばめ塾を設立して半年後、私は映像制作の正社員を辞めました。突然辞めることにしたので、高校の非常勤講師への復帰ができず、完全に無職になりました。そこで、義母が営んでいたお弁当屋さんで配達のアルバイトをしていました。と同時に、つばめ塾が入る建物は、学生さん中心のシェアハウスになっていて、そこの宿直をお手伝いすることにしたのです。自分が決めたこととはいえ、安定した正社員から、アルバイト生活。年収は激減です。しかも「無料塾なんてものが、これから増えるのか、続けていけるのか」、全く見通しのつかないときです。2013年の春というのは、世の中に無料塾がほとんど存在しない時だったのです。宿直していても、眠れない日々が続きました。「なぜ無料塾なのか。」「無料塾の意義とは何か。」必死に自問自答しました。でもこの時が、一番「無料塾」を考えた時だと思います。安定した職を放り投げて選んだ道です。真剣にならざるを得ませんでした。そして、宿直室でインターネット検索して、見たのが「市区町村が委託して運営する無料塾」でした。私は大いに疑問を持ちました。理由は長くなるので書きませんが、「民間有志型の無料塾を増やそう!!」と堅く心に誓いました。

設立した日に思ったこと。宿直室で、自問自答を繰り返して感じたこと。このことを忘れずにこれからも運営していきたいと思っています。しかし私の思考のすべてを他人に伝えることはできません。では、この「初心」を一つの文で表したら何になるのだろうか、と思いました。それは、「何とかして、経済的に苦しいご家庭が希望を持てる状態にしたい。」ということに尽きます。
大事なのは、「何とかして」の部分です。これは、「常識で考えたら達成不可能であるが、ありとあらゆる考えや視点を総動員して、目標達成のために実行すること」です。
「無料で塾なんて運営できるはずがない。」「一ボランティア団体が奨学金なんて作れるはずがない。」常識で考えたら、この考え方が正しいです。でも、非常識と言われようが、綺麗ごとと言われようが、経済的に苦しいご家庭の子どもたちに、勉強を教えなければならない。このスタートラインは、譲るわけにはいきません。

あれから10年近くの月日が流れました。つばめ塾は280名の卒業生を送りだすことができました。多くの無料塾が全国で立ち上がりました。状況は大きく変わりました。280名を見て、「これだけの子どもたちを送り出したんだ!!」と誇りに思う自分がいます。ボランティア講師のみなさんは、大いに誇りに思って頂きたいところです。でも事務局長は違います。これを誇りに思うことは一方で驕りにつながります。改めて考れば、経済的な状況から、塾にいけない子、勉強が思うように進まない子、家計が苦しいご家庭。まだまだ沢山います。
今年もまた、メールをひたすら打ち、お米を精米し、季節講習で声を枯らして受験生に社会を教え、食料頒布会を企画し、食料を運び、奨学金を運営し、無料塾を立ち上げたい人に作り方を教え、塾生に「こんばんは」「よく来たね」「勉強頑張ろう」「気を付けて帰るんだよ」と大きな声で元気よく呼びかける。こういう日々を過ごして、驕ることなく、子どもたちに愚直に尽くしていきたいと思います。

全国の寄付者、支援者のみなさま、今年もどうぞよろしくお願いいたします。

認定NPO法人八王子つばめ塾 理事長兼事務局長 小宮位之