全国の支援者、寄付者、塾生、卒業生、ボランティア講師、元講師のみなさま
みなさまのおかげ様で、八王子つばめ塾は8周年を迎え、今日から9年目となりました。深く深く感謝申し上げる次第です。
毎年9月にこの文章を書いていて、ネタは尽きてしまいました。7周年と8周年で劇的な変化があるわけではありません。
しかし記念すべきこの日ですから、違う角度から「つばめ塾」を論じてみたいと思います。
それは、「政治」です。NPO法人は、法律により、特定の政党の支持と不支持を表明する行動を禁止されております。それは当然のことです。もちろんここで政権の支持や批判などをする気は毛頭ありません。ただし、経済的に苦しいご家庭の支援を行うボランティア団体の本義に立脚して、こういう政治を行うべきという主張は堂々とすべきと常に考えております。
自己責任論からの脱却と、富の再分配を!!
大きな富の再分配は、政府でなければできません。
これは、八王子つばめ塾が常に訴えていることです。しかし政府だけがやればいいと言っているのではなく、つばめ塾としても、実際にこの主張に沿って活動を行っております。
このHPで繰り返しているように、私は八王子の貧困家庭に育ちました。祖父は歌舞伎の裏方、父はテレビ制作のスタッフでした。しかし父はフリーで仕事をしていたので収入は安定せず、年収200万円以下の家庭でした。父は戦中生まれでしたが、小学校、中学校共にまともに通わず、字はかろうじて読めるものの、書くことは全くできませんでした。中学卒業後は現代風に言えば「ニート」そのものであり、まさに先駆け的な存在でした。祖父に勧められて歌舞伎の裏方の職に就き、その後大河ドラマのスタッフなどを経て、ドラマ制作の仕事をしておりました。しかしバブル経済が崩壊してドラマ制作が激減し、仕事がどんどんなくなりました。こうして父の履歴を延々述べたのは、「成育歴や時代の変化によって、どうしようもないことが存在する」ということを言いたいからです。自己責任論を言う人の中には、「努力が足りないんだ」と言う人がいます。もちろん一理あります。映像制作の仕事が無くなったんだったら、転職すべきだったかもしれません。しかし、字が全く書けない人間が今までしていた仕事以外に転職することなど、現実には考えられません。年収100万円しか稼げなくなるような家庭(我が家の最低年収)へのセーフティーネットは社会全体で構築すべきであろうと思っています。人生には色んなことが起こります。だから、困った時は最低限の暮らしができるような仕組み作りこそが大切だと考えています。
富の再分配を!!と言うと、「俺たちが必死に稼いだものを分けろというのか!!」という主張をする方が必ず出てきます。しかし、そう主張している方々と、私のような貧困家庭の人の主張は「金額」が全然違います。幼少期、我が家のスパゲティのミートソースは、小さじ3杯しかかけてはいけないと厳格に決められており、ほとんど色も味もないスパゲティを食べていました。このレベルなんです。月額にして、あと1万円ほど何とかしてもらえませんかね??というレベルなんです。もちろんここまでの貧しさは、今のつばめ塾塾生の家庭ではほとんどないと思います。でも、このコロナ禍において、「保護者の私は、1日2食にして何とか切り詰めています。」という声も届いています。ですから、そんなに大それた額を要求しているのではなくて、子どもが遠慮なくお腹いっぱい食べられるくらいの額は再分配で何とかなりませんかね?ということを政府に対して主張しているんです。
学力の再分配、富の再分配
つばめ塾では、大きく分けて2つの事業があります。それは「学習支援」と「それ以外」です。
つばめ塾で行う学習支援は、つまり「学力の再分配」にあたります。つばめ塾のボランティア講師は、社会人講師が多く、今まで「教育的投資」を受けて大学に進学した方がほとんどで、今現在もボランティア活動をする最低限の余裕がある方です(もちろん忙しい中、来てくださっています)。そういう方から、塾生のために時間を割いてもらって、「学力の再分配」を進めております。
次に「それ以外」では、「金品か金品に相当するものを家庭に分配する」ことを目標に積極的に展開しています。私のことを「塾至上主義者」のように勘違いしている方がいますが、私自身は塾に1回も通わずに、高校・大学に進学しており、「何が何でも塾がなければならない」なんて考えていません。勉強は自分でもできると考えています。でも、お金のことは中高生ではどうにもできません。稼ぐことはとても難しいことです。ですから、奨学金事業、問題集のプレゼント、お米・パスタの贈呈事業、ノートパソコンの貸出事業などを積極的に行っているんです。
食べ物に事欠く経験などが全くない家庭が多い一方で、その日の食事もどうしようか保護者が悩んでいる家庭が現実にいます。PCやタブレットが何台もある家庭がある一方で、多子世帯でスマホはあるものの、タブレットやPCが全くなく、購入しようにも、優先順位がどうしても低いという家庭が現実にいます。
どうして続けているのか、、、
私には息子が3人います。ことあるごとに私が貧困家庭に育ったエピソードを言い聞かせています。
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パパはとても貧しい家庭に育った。エピソードには事欠かない。しかし大事な時に、パパのおじいちゃんとおばあちゃんが大学進学の費用を全部出してくれた。つばめ塾を始めてみると、進学費用を全く出せない保護者も沢山いる。その時、気づいたんだ。「パパは、とてもラッキーな家に生まれたんだ!!」ということに。そこで「僕はラッキーな家に生まれた。あなたはアンラッキーな家に生まれた。では失礼します!!」と言って塾生の前を素通りができるか?パパにはできない。何とかして塾生のために、動かなければならない。これだけ話せばわかるだろう。こんなに毎日のように家を出てつばめ塾に行く理由が。勉強を教え、お米を小分けにし、奨学金を振り込みに銀行に行き、パソコンを整備し、宅配便で送り、、、こうしている間にも、母子家庭で親1人子1人、アパートで「勉強がわからないけど、塾に行くお金もないし、どうしよう」と悩んでいる人がいる。つばめ塾の先生もたくさん、熱心に来てくれている。だからパパもつばめ塾に行かなければならない。
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中2生の長男はこの頃、理解してくれるようなりました。
この8年間、一瞬たりとも「こんな塾を作るんじゃなかった」などと心に浮かぶこともなく、熱心に取り組めたのは、「自分なラッキーな家に生まれたんだ!!何か動かなければ!!!」という心の底から湧き上がる気持ちです。
しかしその気持ちも家族に支えられてこそです。正社員を辞めて、非正規雇用になってまで取り組んでも、1回も反対したことのない妻と、仕事の後はつばめ塾に行くのが当り前と思ってくれている息子たちのおかげです。
そして何よりも、1円の得にもならないことのために、自分のお金も時間も使って教えに来てくれている多くのボランティア講師のみなさん、そして、寄付金や寄付品を送って下さる多くの寄付者、支援者のみなさんのおかげです。上手く言葉にできないほどの深い感謝の気持ちを心に抱いております。
今までお世話になった卒業生、今の塾生、そしてそのご家庭に代わって、深くお礼を申し上げる次第です。
つばめ塾設立8年周年を迎えた9月1日に、、、
認定特定非営利活動法人八王子つばめ塾理事長 小宮位之