塾に携わっている以上、「教育」とは何か?と考えることは常にあります。

私の祖父は小宮多助といい、歌舞伎の裏方で小道具という仕事をしていました。字の読み書きが全くできなかったのですが、歌舞伎の台本が全て頭に入っていて「この芝居のこの役者さんにはこの刀」と、すぐに準備できたと聞いています。生き字引と言われ、歌舞伎の裏方としてはとても有名な人だったそうです。

私の父は、字を読むことは出来ますが、書けない人です。中学校もまともに行かずに卒業し、数年間仕事もせず、家でゴロゴロしている人でした。今で言う「ニート」の先駆けでしょう。

そんな父を見て、歌舞伎役者の中村翫右衛門(三代目)さんが、「あの多助の子だというのに情けない。うちに来て仕事をしなさい。」と引っ張ってくれ、小道具の仕事を始めることができました。

そして「お前は学がないんだから、とにかく本を読むんだよ。」と諭して下さり、父は20歳から5年間ひたすら色んな本を読んで勉強したそうです。

父曰く、「あの時本を読んで、やっと人並みになれた。そうでなければとても結婚なんて出来なかったね。」とのことです。

あの時、翫右衛門さんが「こいつは仕方のないやつだ。ほっておこう。」と考えたら、今の父はいないし、今の私もいないことになります。そう考える時、いかに「人のことを思いやって行動する」ことが大事か、ということを実感します。これこそが教育の本当の姿なのだと思うのです。

八王子つばめ塾が、ただ単に「勉強ができる」ことだけを目標にせず、いつかは「人のことを思いやることができる人に成長してもらいたい」という目標を掲げているのも、これが原点にあります。それは、完全にボランティアの講師が後輩たちを思って行動する(授業をする)ことによって、生徒が感じ取ってくれ、いつかその花が咲く時がくると信じているのです。

ちなみに、中村翫右衛門さんは、俳優中村梅雀さんのおじいさんにあたる人です。2時間ドラマなどで活躍するお姿をテレビで拝見すると、「この人のおじいさんにうちは救われたのだなあ」といつも思っています。

事務局長 小宮位之