先日、4月29日付で「その受託事業、やめませんか?」という意見を掲載しました。(https://hachiojiswallow.com/?p=4166)

それに対し、丁寧にコメントを頂きましたので、ご本人の了解をとって、ここに掲載させていただきます。神田さまのご主張を是非お読みいただき、学習支援に関して、色んな情報や知識を得て頂ければと思います。

ただ、私が申し上げたいのは、
“「受託事業」を行うことが唯一の道であり、それを推進することが何より大事なことではない”ということです。受託事業がすぐに無くなるとは思いませんが、「学習支援において、受託事業はベターではあるが、決してベストではなくて、色んな道があるよ。」ということを主張しておきたいと思います。

理事長 小宮位之

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小宮様 お世話になります。埼玉県上尾市で無料塾をやっております神田と申します。

私見をいくつか述べさせていただければと思います。

埼玉県及びさいたま市がおこなっている学習支援事業、アスポート事業というものは
学習をメインとしたものではなく小宮様がご提案されている居場所事業のような性格
を強く持っているものです。

生活困窮家庭の子どもの家庭訪問をおこない学習の妨げとなっている生活面での困りごと、
家庭内の問題は何か、虐待などがないかなど子どもと寄り添いながら学力の向上を図る
ことを目的としている福祉色の強い事業です。

その点を是非、ご理解いただきたいと思います。

本題の受託事業をやめたほうとのご意見ですが、私は違う考えです。
埼玉県がおこなっているアスポート事業のようなことを考え、おこなえる力がある
NPOであれば積極的に受託すべきだと考えています。

受託すべきと考える1番の理由は、自治体が把握している生活保護やひとり親家庭の
子どもがどこにいるかという情報を共有でき、その子どもに直接支援ができるからです。

無料塾や子ども食堂が抱えている「本当に困っている子どもが来てくれない、どこにいるの
かがわからない」という問題を解決することができます。

本当に困っている家庭は、情報をうまくとることが難しいですし、困難なことをいくつも
抱えていて子どもの教育まで考えが至らないというケースが多いと思います。

行政の受託事業でしたら、そういった家庭へこちらから出向くいわゆるアウトリーチが
できることが非常に大きいと思います。

事業の継続性が担保されないではないかという点についてです。
おっしゃる通り大変重要な問題だと思います。

ご指摘の通り安い方がいいに決まっているという意見も至極当然です。
問題は、この事業が本当に値段だけの入札で業者を選定するような制度で良いのかと
いうことです。
貧困家庭の子どもを救い、貧困の連鎖を防ぐため生活支援と学習支援の両面から子どもを
支えるという大変重要な事業を値段が安いからということだけで決めてしまって良いので
しょうか。

今回さいたま市で落札した家庭教師のトライグループが貧困家庭の子どもに寄り添い、関係部署と連携しながら貧困の連鎖を防ぐという地道で大変な事業をおこなえるとはどうしても考えられません。

営利企業の塾が、今まで絶対に相手にしてこなかった授業料を払えない子どもに対しての
ノウハウ、理念を持っているとは到底思えません。

埼玉県、さいたま市がおこなっているアスポート事業は、全市でおこなわれていますが
市によっては、事業の性格上、単なる値段での競争入札はなじまないとしてプロポーザル
方式を採用しているところも多くあります。

今回、青砥先生が憤っているのは、さいたま市が福祉的要素が強い事業に対して、経済の論理を当てはめたことだと思います。

☆行政は、公立の小中高の充実を図るべきで塾に多大な公金を投じるのはおかしいという点について

現在、7人に1人の子どもが貧困状態にあると言われています。これは小中学校の1クラス約35名として計算すると各クラスに5人近くは貧困状態にある子どもがいるということになります。

ご存じの通り学力と経済力には強い相関関係が見られます。この学力差はいつからつき始めるかというと10歳の壁のはるか前の小学校入学時点ですでに差がついています。

本の読み聞かせの量、親の話す語彙の豊富さ、さまざまな体験、物事に取り組む姿勢、
周囲から愛情を受けて育っているかなど小学校入学時で雲泥の差があります。

いくら小中学校の教育の充実を図ってもこのようなベースの差は、学校教育で埋められる
ものではありません。

いくら先生方が質の高い授業をしても生徒の側でそれを聞く力、理解する力が伴っていなければ、効果は薄いと思います。他の生徒に比べ理解力が3分の2しかなければ1時間あたりで3分の1遅れていき、それが1日4時間は授業があるわけですから、今の学校の1クラス30人の体制では到底追いつけないと思います。

結局、今以上に公立の学校に財源を回しても貧困家庭の子どもにはほとんど恩恵をないという厳しい結果になると思います。

☆行政が得意なのは一律・平等 について

教育委員会にもっと貧困家庭の子どもに目を向けて欲しいと市議会議員などを通じて
要望するとこの答えが返ってきます。学習支援事業などに協力できないということです。

しかし文科省では、生活困窮者自立支援制度に関する学校や教育委員会等と福祉関係機関との連携について(通知)http://www.mext.go.jp/b_menu/hakusho/nc/1356501.htm
という通知を出し、教育委員会へ学習支援事業などへの協力を求めています。

是非ご理解いただきたいと思います。

繰り返しとなりますが、NPO団体の無料塾に通っている子どもは、支援すべき子どもの中で意欲もあり、ある程度の学力もある数%に過ぎないと考えています。

行政が何もせず民間の団体にすべてを委ねたら、意欲も学力も情報収集力も行動力もない後の9割以上の子どもは、切り捨てられていくことになります。

民間だけでは、絶対に限界があるわけで国の政策としてもっともっと恵まれない子供への支援をおこなうよう求めていくべきだと思います。

以上つたない文章ではございますが、少しでもご理解賜れば幸いです。