予めお断りしておきますが、以下の文章は、特定非営利活動法人八王子つばめ塾理事長小宮位之が出す、公式意見です。

先日、今年度のさいたま市の学習支援事業が今までの「さいたまユースサポートネット」(以下「さいたま」)から一般企業に変更されたという記事が毎日新聞に載っていました。有料記事なので全文は読めませんでしたが、「さいたま」代表の青砥恭さんが記事をFacebookに掲載しており、それを読むと、上記の内容のようです。長年にわたり、「さいたま」さまが受託事業として請け負っていました。しかし、入札で金額の安い額を提示した業者に決まったようです。

あえて一言目に、「もうその受託事業やめませんか?」と言いたいと思います。青砥さんは大変素晴らしい方で、私も講演を聞いたことがありますし、「キッズドア」の渡辺由美子代表と共に、無料塾業界を引っ張ていた方であることは間違いありません。そのスタッフの方の働きそして通ってきた生徒さんたちの努力に、文句や批判をするつもりは微塵もありませんし、むしろ敬意を表します。

ただ、「無料塾事業」と「行政の受託事業」との相性の悪さをひしひしと感じるのです。
八王子つばめ塾が行政からの受託事業をなぜ受けないのかというのは、以下の点にあります。

1、「事業の継続性」
今回のように、行政から打ち切られてしまえば、どんなに思いや情熱があっても継続することはできません。

2、「生徒への現金による直接拠出が不可能」
八王子つばめ塾は独自に奨学金制度を保有しており、交通費やテキスト代、資格試験代など、現金で支出しています。これを受託事業を受けている団体で実施したら「公金の横流し」になり、許されません。しかし、生徒の支援は、現金を出さなければ達成されないこともありますので、これをするには、受託事業は不向きです。

3、顧客の比重が「生徒」から「担当部署」へのシフト
当初は生徒のために始めた事業でも、来年の契約がなければ実施することは不可能ですから、担当する部署の意見を重要視するように変化します。もちろん、部署の意見と受託を受けている団体の意見が完全に一致していれば全く問題はありませんが、意見が相違してくれば、現場との乖離も生じます。ましてや、今回のような出来事があれば、生徒より部署、生徒よりコストに気が向くのは当然のことと言えます。

「塾」という存在は、あくまでオプションです。行政は、公立の小学校、中学校、高等学校などの教育機関をすでに保有しています。まずはここの充実をすべきであって、塾に多大な公金を投じるのはおかしいと思います。
さらに、「学習支援事業」と銘打てば、民間の塾産業の参入は当たり前です。その費用は安ければ安い方がいいに決まっています。市民ならそう感じるのは当然ではないでしょうか?

ここまで書くと、じゃあどうすればいいんだ!!となります。
私の提案は2つです。
一つは、学習支援事業ではなく、居場所事業への転換です。居場所事業の延長に「学習支援」があればいいと思います。居場所支援がメインなら、塾産業の参入の可能性は比較的低いと思われますし、NPO法人としての意義もあります。
もう一つは、「民間有志型の無料塾(受託事業を受けない団体)」を増やすことです。無料塾には、大きく分けて「場所」「生徒」「講師」「情報」「資金」が必要ですが、場所は自分たちで公民館を借りたり、地元の方が「無料で使ってください。」と貸して下さる場合もあり、全て自前で用意しています。生徒も行政からの「指定」ではありません。HPや口コミで独自に募集していますので「行政から打ち切られる」という可能性は0%です。講師も独自でボランティア講師を集めており、独立しています。情報についても、無料塾同士で「無料塾シンポジウム」を開催し、情報交換する場を設けて運営ノウハウの共有に努めています。最後に、資金ですが、八王子つばめ塾では、すべて民間の個人、企業からの寄付金で成り立っています。ここに行政の意向など入り込む余地は一切ありませんので独立独歩で運営できています。

ここまで書くと、「子どもの貧困対策は国や行政が責任もってすべき!!」という声が聞こえてきそうですが、もともと行政が得意なのは、「一律、平等」のはずです。公立学校で手厚く教育をするとか、子どもがいる家庭に児童手当を支給するとか、ひとり親家庭には児童扶養手当を出すとか、ある程度の一律性があることを得意とし、またそれを生かして貧困対策をすべきです。その代わり、個別対応が必要な分野は苦手です。だからその部分は、民間のNPOが向いており、その活動も公金に頼ることなく、民間からの場所や資金の提供をメインとすべきです。

もう一度繰り返しますが、「さいたま」さまの今までの働き、活動を批判しているわけではありません。
学習支援分野での「受託事業」をやめ、その財源を公教育に回し、本当の市民社会にむけて、NPO団体が行政に頼らずに動いていく必要があるのではないかと、考えている次第です。

特定非営利活動法人八王子つばめ塾理事長 小宮位之