最後に、理事長挨拶の全文を載せます。(一部編集してあります)
みなさま、改めまして、八王子つばめ塾設立10周年記念交流会にお越しいただき、誠にありがとうございます。
今日は原稿を作ってきました。本来は原稿無しでも話せるのですが、原稿が無いと1時間でも2時間でも話せてしまうので、時間を抑える為に、今日は原稿を読ませて頂きます。
折角の機会ですから、普段あまりお話したことのないようなこともお話ししてみようと思います。HPには、少しずつ書いているエピソードも、まとまってお話する機会はなかったので、つばめ塾に対する私の思いを、色々お話ししたいと思っています。
私は、八王子市内のとても大きな都営団地で育ちました。最盛期には1万5千人が住んでいたという都営団地です。4畳半と6畳しかない狭い家の中で、「世の中はなんて不公平なんだろう。そして社会はどうして困っている人を助けてくれないのだろう。きっと、日本の国とこの社会に見捨てられているんだ」と感じて育ちました。団地の中には困っている人が沢山いるというのに、団地を一歩出れば、ベンツでもBMWでもいっぱい走っているわけです。だから、つばめ塾では、「この社会は見捨ててないよ」というメッセージを塾生に伝えたくて、学習支援に加えて、奨学金制度も作っています。
先日、Facebookで小学校の時の同級生が連絡をくれて、久しぶりにやり取りをしました。「そういえば、小宮、新聞に出たいって言ってたよな。叶って良かったな。」と言われ、驚きました。小学校6年生の時の夢が確かにそうだったのです。誰にも言っていないと思っていたのですが、ベラベラ喋っていたみたいです(笑)。それは、新聞の「人」という欄に、カンボジアで地雷を撤去する装置を、仕事が終わった後にボランティアで作っていたおじさんの話が載っていたんです。そこで感動したんです。「何の得にもならないことのために一生懸命取り組むなんて、凄い大人がいるんだな~自分もいつかこういうことで新聞に出てみたい」と思ったのです。でもまさか無料塾という形は、想像もできませんでした。ですので、始めて3年ほど経った時に、読売新聞の多摩版に出たときはとても嬉しかったです
さて、中学校に入学して、陸上部に入りました。そこで、初めての試合に出ることになって、「スパイク」の値段を知った時、とても驚きました。確か5400円だったと思います。安い靴しか買ったことがなかったので、靴に5400円も出すのか、こんな金額を親に払ってもらうのは申し訳ないな、と思ったのです。でも親は何とか出してくれました。
私は、家にほとんどお金がなかった13歳のころの自分の感性を忘れたくないと思っています。そして13歳の自分に胸を張っていられるような生き方を目指しています。もしつばめ塾を立ち上げていなかったら、13歳の自分にこういう突込みを受けていたと思うのです。「なんだ、結局自分が幸せになればそれでいいのかよ。結婚して、子どもができて、正社員で、ボーナスまでもらえて。そうなると、団地に住むような俺たちことなんか関係なくなるんだな!!」と言うと思います。これは、13歳のころの自分なら間違いなく言っていると思うんですね(笑) そこで、「いや、今こうやって、無料塾を開いているよ。正直、まだまだ力は足りないけど、毎日全力を尽くしているよ!!」と反論したいのです。正直、他人の目ならいくらでも誤魔化せます。「こんなにつばめ塾を頑張ってます!!」というPRはいくらでもできます。しかし、自分の過去にウソをつくことはできません。貧しかったころの自分に恥じない生き方をしたいと思っています。
高校は、都立南多摩高校に進学しました。2年生の時に、我が家の年収がついに98万円となってしまいました。頼むから高校を辞めて働いてくれと父に言われ、慌てて高校奨学金を借りました。3年生の進路選択の時には、父に大学進学に物凄い反対をされ、土下座をして許してもらいました。受験を目前に控えた12月、隣の部屋で、両親の会話から、我が家の全財産が800円しかないことを知り、頭の中で何かがはじけて、そのまま家を飛び出してしまいました。1時間後にへとへとになって帰宅したのですが、その時の記憶が全く無いんです。しかしながら、母方の祖父母に学費を出してもらうことができ、何とか國學院大學の文学部史学科に進学することができました。ただ、入学をしたはいいものの、1か月ほど教科書が1冊も買えず、ノートだけ持って授業に出ていました。この時の2年間で肌身に染みてわかったことがありました。それは、「どんなに、実力、なりたい職業、夢があっても、お金がなくては叶えることはできない」ということです。この思いが、私の原動力です。経済的に苦しい家庭の子どもたちのために、何としても動いていきたい。この思いが、運営のエネルギーになっているのです。
大学を卒業し、高校の非常勤講師を4年つとめてから、映像制作の仕事に転職しました。そこで、アフリカのウガンダという国に取材に行きました。26歳の春でした。当時は政府に対する反乱軍が活発で、村々に押し入っては少年たちを誘拐し、兵士にしていました。女の子は司令官と強制的に結婚させられます。司令官には奥さんが69人もいたそうです。元少年兵士だった人にインタビューをすることができました。私は音声係だったので、翻訳が全て耳に入ってきます。「自分が育った村に襲撃をかける時には、一番先頭に立たされ、親戚を撃ってしまったから、もう二度と自分の村に帰ることはできない。」とうつろな目で話してくれました。この話が一番印象に残っています。取材が終わってホテルに帰って、先輩が寝静まったころ、毎晩泣きました。「苦しい」の意味が日本と全く違うのです。生まれた国が違うだけでこんなにも苦しい目に遭うなんて、、、枕に顔をうずめて毎日泣いて考えていました。そして、ウガンダで出会った子どもたちのために何をしたらいいんだろう。自分に何ができるんだろう。帰国したら寄付をしたらいいのか。今から英語を猛勉強して国連の職員になればいいのか。考えてはみたものの、どちらも浅はかな考えです。そこで思いついたのが、「そうだ、人を育てよう!!今はカメラマンの見習いだけど、自分の人生の中で、人を育てる立場になる日が必ず来る。その時には、世界を1ミリでも2ミリでもいい方向に持って行ける人材を育てよう。こういう誓いを立てることしか今の自分にはできない。」こう思って、ウガンダを後にしました。だから、つばめ塾の本当の始まりは、ウガンダだったと言えるのです。こういう思いが根底にありますから、私はつばめ塾を単なるボランティア団体とは思っていません。人材育成機関だと思って運営しています。日本を、世界を、ほんのちょっとでもいいから、いい方向へ導けるリーダーを育てているつもりです。その能力の大きさはみんな違います。でも、うちのボランティア講師に習っているんだから、その能力が塾生みんなにすでに備わった、と固く信じて今日まで運営して参りました。
さて、つばめ塾には、4つの名誉と1つの禁止事項があります。誇りに思っていることが4つあって、そして、やってはいけないことが1つあるんです。
名誉に思っていることの1つ目は、「今日こうして2時間、塾生が勉強して、わかったと言って帰っていくこと。」これ以上誇りに思うことはありません。ここに一番の価値を置かないと塾はおかしくなってしまいます。
2つ目は、つばめ塾の卒業生が教えに戻って来てくれていることです。つばめ塾の理念を体現してくれている子が今までに8名もいるのです。「自分も苦しい時期があったけど、後輩のために力を尽くしたい。」という卒業生がいるということは、今までのボランティア講師が真剣にやってきたことの証しだと思います。
3つ目は、社会の第一線で活躍する人材がボランティアをしてくれていることです。これは、有名企業に勤めているとか、有名大学に通っているとか、そういう意味ではありません。働きながら、大学に行きながら、家族を養いながら、悩みも抱えながら、でも時間を作って、交通費も自分持ちで、それでもなお、「子どもたちのために勉強を教えよう」とする講師がいるということです。これこそが社会の第一線で活躍している、ということです。ドバイの大金持ちがお金で雇っているのではないのです。こういう素晴らしい講師に教えてもらっていることが本当に誇りです。
そして4つ目は、民間団体でありながら、返済不要の奨学金制度を運営できていることです。昨年度は300万円もの奨学金を出すことができました。全国の無料塾でここまで大きな奨学金を出しているところはいくつもないと思います。これは間違いなく、寄付者のみなさまのお陰様です。
最後に、名誉に思ってはいけない禁止事項が1つあります。それは、国や行政機関から表彰を受けることです。もちろん、受けるような打診など今まで1回もないのですが、将来にわたって、民間の財団などからは受けるかもしれませんが、行政からは受けないと思います。それは、こういう理由です。こういう表彰を受けると、「うちは国や行政から認められているんだ、すごい団体なんだ」という驕りが、知らず知らずのうちに出てくるからです。つばめ塾の価値は、1つ目に申し上げた通り、生徒への勉強の提供です。行政から表彰を受けることなど生徒からしたらどうでもいい話です。今日、どれだけ勉強ができるか、これが大事なのですから、表彰には何の価値もありません。その勘違いを生まないために今から決めています。
話は変わって、2か月前にとても頭にきたことがありました。それは、オリンピックの賄賂疑惑です。裁判で確定したわけではありませんが、報道が事実だとしたら、とんでもない話です。報道を見た瞬間に、「大人がこんなことしていて、国が良くなるはずがない。子どもたちが見たらどう思うのか!!」とテレビに向かって叫んでいました。きっと子どもたちは、こう思うでしょう。「世の中は、こんな汚い大人がいるのか。最低時給1071円で働くなんてバカバカしいな。」とか「やはり世の中は悪いことしても上手くやったもん勝ちだな」とか、色々感じると思うんです。だからこそ、つばめ塾が世の中に堂々と示さなければならないと設立以来、ずっと思っているんです。それは、あのオリンピックの理事の正反対のことです。「1円の得にもならないことのためにこんなに真剣に取り組む大人が沢山いるということ。顔をみたこともない子どもたちのために、寄付してくれる人が沢山いること。」このことを、NPO法人として、堂々と世の中に、子どもたちに示していこうと思うのです。
無料塾の報道が世の中に出ると、インターネットの掲示板では、「無料塾の取り組みは素晴らしいけど、こういうことは政府がやれ。」などと書かれます。しかし、私はそんなふうには思っていません。確かに、政府が経済的に苦しいご家庭のためにいろいろ税金でやることはとても大切です。しかし、先ほど言ったように、私たちには、役割があります。堂々と子どもたちのために、あるべき社会の姿を示していかなければなりません。だから、無料塾は、有料塾の無料版でも廉価版でもありません。無料塾という独立した存在だと思っています。
さて、最後にこんなお話をして終わりたいと思います。つばめ塾の孫弟子に「宝塚つばめ学習会」という無料塾があります。そこがYouTubeチャンネルをやっていて、昨年対談をしました。「つばめ塾さんは、この9年間、無料塾の先頭に立って一生懸命取り組まれてきました。そこでお聞きしますが、9年前と比べて、教育格差は縮まりましたか?」と聞かれたんです。そこで私は答えました。「9年間やって、格差は正直言って、縮まっていないと思います。むしろ広がっているかもしれません。しかし、9年前と何が違うかというと、1円の得にもならないことのために、こんなに真剣にやってくれるボランティア講師に習った子どもたちが、250名以上卒業したということです。こういう子たちが世の中に増えたということは、1人もいなかった9年前とは、全然違います。そこに希望を持っているんです。」こんなふうに答えました。
先ほど、卒業生の言葉をみなさまに聞いて頂きました。これがつばめ塾の成果の全てです。でも、今日来ていない子でも、多くの子たちが、高校で、大学で、この社会で活躍し、ボランティアでなくても、一生懸命働いて、この社会に貢献していると思っています。
「お金さえあれば、面倒を見てもらえる社会」で育つのと、「お金が厳しい家庭でも自分を応援してくれる人がいるんだと感じて育つ社会」、どちらがいいでしょうか?どちらが、私たちが目指すべき社会でしょうか?
大変長いこと話しましたが、これだけ、自分の思いをまとまって話したことはありません。今日ご参加下さったみなさまは、全員、無料塾に思いのある人です。ですので、思っていることを純粋に話すことができました。
これからもどうぞ、つばめ塾を宜しくお願いいたします。最低30年はやるつもりで作りましたので、あと20年は、なにがあっても運営します!!(笑)
これで、理事長の挨拶といたします。ご清聴ありがとうございました。
認定NPO法人八王子つばめ塾 理事長 小宮位之