理事長の小宮です。
このたび、つばめ塾の大学生奨学金を受けて、春に卒業する奨学生に、卒業時のレポートを書いてもらいましたので、お時間あるときにぜひお読みくださいませ。
プライバシー保護のため、大学名と名前は伏せて発表させて頂きます。

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「ボランティア講師を通じて」

私は、八王子市内にある大学の国際教養学部に通うM・Hと申します。現在4年生で、この春に卒業いたします。八王子つばめ塾の活動には2019年の12月から参加し、約2年間関わらせて頂きました。この度は塾の奨学金を頂いていたことや、講師として塾の活動に関わらせて頂いたことへの御礼と共に、その活動を通じて私が学んだことについて書かせていただきます。

大学進学と海外留学

群馬県の県立高校に通っていた私は、大学進学を機に上京しました。現在は国際教養学部に所属し、経済学や社会学、政治学などの分野を総合的に学んでいます。また、開発経済学を専門に学ぶゼミに所属し、発展途上国の抱える問題を経済学的視点から学んでいます。私がこの学部で勉強したいと思った理由には以下の2つがあります。まず1つに、学部で開講されている授業が全て英語で実施されている点です。英語で学問を学ぶことができたため、学問の内容のみならず、議論や課題を通じて英語力も向上させることができました。2つ目に、1学期間の留学がカリキュラムに組み込まれていたためです。私はこの留学を利用してフィリピンのアテネオ・デ・マニラ大学に留学し、開発学や教育学を履修しました。この留学では、数多くのストリートチルドレンや物乞いをする人々の生活を目の当たりにすることも多く、貧困問題に更に強い関心を持つきっかけとなりました。

つばめ塾との出会い

フィリピンでの留学を機に貧困や格差に問題意識を持つようになった私は、今の自分にできる範囲で何か貧困問題に対して行動を起こしたいと思いました。しかし学生であるため、頻繁に途上国を訪れることもできません。また、特定の技能を持っているわけでもないため、途上国に赴いたとしてもできることは限られていると感じていました。そんな折、インターネットで、八王子市内に無料で教育を提供しているNPO団体があることを見つけました。“学んだ子どもたちが将来ボランティアという巣に戻ってきてほしい”という願いの込められた“つばめ塾”という名前とその使命に強く共感したのを覚えています。
また、私自身も無償で教育を受けていた経験がありました。私が小学3年生だった時に、父親が脳梗塞を発症し、家庭の経済状況が悪化してしまいました。そんな時、地元の元教師だった方が、中学高校の6年間、定期試験前になると社会科目を熱心に教えてくださいました。自身もこのような経験があったことから、恩返しの意味も込めて、つばめ塾を通じて社会に価値を還元していきたいと思い、ボランティア講師に応募しました。

講師になって

私自身、学生時代、英語が一番の得意科目だったのですが、英語を教えるとなると話は別です。どのように説明すれば生徒が理解しやすくなるのか、毎回の授業が試行錯誤の連続でした。しかしながら、つばめ塾の生徒は素直な子が多く、わからないときは質問をしてくれて、大変授業がやりやすかったです。また、一人ひとりが真面目に勉学に取り組む姿を見ていると、自分自身も大学の勉強を頑張ろうと鼓舞されることが多々ありました。また、つばめ塾の生徒の多くは、会うたびに必ず挨拶をしてくれます。授業後に「ありがとうございました。」と一言声をかけてもらうだけで、今日もつばめ塾に来て良かったなと思えて、自分自身のやる気にもつながっていました。

つばめ塾の大学生奨学金

私は、2021年度の奨学生として採用していただきました。前述した通り、私が小学校3年生の時に父親が脳梗塞に罹って以来、家庭の経済状況が悪くなってしまいました。幸いにも父は一命を取り留めましたが、今なお左半身に麻痺が残っている状態で、勤務時間も以前と比べて半減してしまいました。自分が大学に入学した2018年から国の給付奨学金制度が充実したこともあり、大学に進学することはできましたが、それでも、経済的には厳しい状況でした。しかし、このつばめ塾の奨学金のおかげで、より勉学に時間を割けるようになったのみならず、つばめ塾の活動にもより積極的に参加することができるようになりました。この場を借りて、つばめ塾の活動に賛同し、寄付をしてくださった方々に心から感謝申し上げます。大変ありがとうございました。

つばめ塾で学んだこと

私がつばめ塾の活動を通じて学んだことは主に2つあります。まず1つ目にNPO(非営利団体)の可能性です。昨今話題となっている“親ガチャ”という言葉からもわかるように、親の収入格差がそのまま子どもの学力に影響するといわれており、現代の経済格差を象徴するような言葉として使われています。たとえどのような家庭環境に生まれようとも、子どもたち一人一人が自身の可能性を開花させることのできる環境を整えることが急務となっています。その意味において、つばめ塾の活動は、教育を通じて子供の無限の可能性を引き出し、経済格差という社会問題の解決の一翼を担っていると感じています。政府がすぐに行動できないところに光を当て、適切な支援ができるのがNPOの強みだと実感しました。

2つ目に、多くの方がつばめ塾に共感し、支援をしてくださっているということです。つばめ塾は事務局やボランティア講師以外にも、塾生のテキストや文房具、卒業遠足などの様々な費用を負担してくださる方や、塾の開催場所を提供してくださる方など、多くの方の御厚意によって成り立っているということがよくわかりました。様々な支援を通じて塾生たちは人の温かさを実感していると思います。このことは一般的な塾では経験するのが難しいことであると同時に、非常に価値のあることだと思います。それによって、生徒は塾に通うことを通じて、勉強を身につけるだけでなく、人としても大きく成長しているように思います。先に述べた様々な支援を通して、生徒たちは他者を思いやれるような人材に着実に成長しています。毎年発行される卒業文集の中には、“誰かを支えられる大人になりたい”、“誰にでも優しく思いやることができる人になりたい”、“誰かのためになることをしたい、できるようになりたい”などと書いている生徒が数多くいます。ここに無料塾の創り出す最大の価値があると感じます。無料塾を支える多くの支援者の姿を見て、自分も他の人を思いやれるような人材になりたいと願う学生たちが出てくることは、無料塾にしか実現しえないことのように思います。

卒業後の進路と抱負

大学卒業後は、英国のサセックス大学大学院に進学予定です。大学院では開発経済学修士課程に在籍し、途上国の抱える問題や統計的分析手法などを学びます。私が大学院に進学したいと強く思うようになったきっかけもフィリピンへの留学でした。現地では、平日の昼間にも関わらず、学校に行かないで物売りや物乞いをする子どもを数多く見ました。その光景を見た時に、とても他人事には思えませんでした。日本は途上国と比べると公的な援助が充実しているため(必ずしも充分であるとは言えませんが)、私も国からの給付・貸与奨学金やつばめ塾からの奨学金のおかげで大学に通うことができています。しかし、もし自分がフィリピンに生まれていたら、十分な教育は受けられていなかったでしょう。また、フィリピンで物乞いをしていた子どもたちが、日本で生まれていたのならば、彼らの生活状況は全く違ったものになっていたでしょう。そう考えた時、たとえどこで生まれようとも、人間としての最低限の生活が保障される社会でなければならないと強く感じました。

大学院卒業後は、国際協力機構(JICA)や世界銀行などの開発機関へ就職し、途上国の貧困問題の解決に貢献していきたいと考えています。今まで支えてくれた両親や友人、先生方、そしてつばめ塾の活動に賛同し寄付をしてくださった方々への感謝の気持ちを忘れずに、これからも頑張っていきたいと思います。

最後に

私自身、つばめ塾の活動に参加することで非常に貴重な経験ができたとともに、多くのことを学ばせていただきました。また、大学生奨学金制度を通じて、より充実した学生生活を送ることができました。この場をお借りして、小宮先生をはじめとする事務局の方々、ボランティア講師の方々、そして数多くの支援者の方々に心から感謝申し上げます。そして、これからも八王子つばめ塾から多くの人材が雄飛していくことを心から願っています。