東京薬科大学非常勤講師の小宮位之です。
1年に13コマだけ、1年生向けの一般教養論「日本の社会保障制度と子どもの貧困」というテーマでお話させてもらっております。昨日は、その最終講義で、中野よもぎ塾の大西代表も特別ゲストにお招きしてお話しして頂きました。大西さんは、現在放映中のドラマ「二月の勝者」での無料塾の取り上げられ方を示しながら、実際によもぎ塾にいた困窮した子どもたちの実例を挙げてくれました。私も思わず、そうそう!と声を上げる実例もありました。「かわいそうと思うことについて」「学力が低いのは自己責任か」など、学生に問いかける形式でお話してくださいました。つばめ塾と根底は一緒ですが、私と表現方法が違うので、学生にとっても深い学びにつながったと思います。

学生の授業全体の感想を抜粋してみます。
「自分たちで社会保障制度を調べて発表したので、勉強になった。」「班の発表の後に小宮先生が、仕組みや法律では発表のとおりだけど、現実はこうだよ、と教えてくれたのが良かった。」「他の授業では教わらない、世界の貧困や日本の相対的貧困の話が聞けて良かった。」「小宮先生は、実際に幼少期に経済的厳しい家に育って、経験したことを基に無料塾を立ち上げられたので、聞いている僕もイメージがしやすくて、とても学びになった。」「こうして薬学部に6年間通うことを許されていること、親に感謝したい。」などの感想が寄せられました。

よもぎ塾に関しても、「様々な子どもの事例を教えてくれて、驚いたことも沢山あった。私が全く知らない現実があった。まずは知ることができたことが大きいと思う。」などと感想が寄せられました。

私が、今年の感想で一番ぐっと来たのは次の感想でした。
「私は、幼稚園から私立に通い、中高一貫校に入り、進学塾に入れられ、親に怒られ、泣きながら勉強してきました。公立の子たちは楽でいいなとずっと思ってきました。でも、講義を聞いて、私が一回も感じることがなかった、食事の心配や勉強する場所の問題、進学の際の費用の問題など、立場が変われば苦労があることがよくわかりました。」というものでした。やはり立場の違う人たちの苦労を知るというのが一番大事だと思うのです。逆に言えば、貧困家庭の育った私から見れば、私では想像もつかない、お金持ちの家庭の子たちのプレッシャーなどを知る良い機会となったわけです。
お互いに知っていくという努力が欠かせないと思うのです。そして、余裕のある人から、余裕のない人に、「いかがですか?」と歩み寄っていく姿勢が大事だと思うんです。困っている立場の人から、「お金がなくて塾に行けないから、無料で教えてほしい」と、八王子駅の駅頭で声を上げることができるでしょうか?Twitterで声を上げたら、教えに来てくれるでしょうか?現実には不可能なことです。
実際に私は貧しい家庭に育ちましたが、大変幸運なことに、祖父母の援助のおかげで大学進学ができました。だから、歴史なら無料で教えられる。そこで、無料塾をやっているのです。学力的には、子どもに教えられる「余裕」があります。祖父母から受けた恩を、つばめ塾の子たちに返していきたいと思っています。そして今は、つばめ塾にお金を寄付してくれる人も沢山います。
ただここで、手を差し伸べてもらった人が、開き直って「支援してもらって当然だ。もらいっぱなしでもいいんだ。」という態度も違うと思っています。受け取ったら、還元すべきです。ただし、1万円の支援を受けたとして、同じ額を現金で返すことは現実的ではありません。それよりも、お金でなくても人や社会に還元できることは沢山あります。ボランティア活動でもいい、人の悩みに寄りそうでもいい、真剣に仕事をするでもいい。様々な視点から他人や社会に「善いはたらき」をすること。これが最大の還元だと思っています。つばめ塾に来ている子たちは、今は、経済的に厳しいご家庭に育っていることは事実です。でもここから、高校に進学し、社会を支える一員となってもらう、この下支えをつばめ塾はしています。
貧しい都営団地の中で、「社会から見捨てられている」と感じて私は育ちました。けれど、つばめ塾を通して、多くの方が塾生を応援してくれていることがわかりました。だから、塾生にも「自分は応援されている存在なんだ」と感じてもらい、これからの人生を歩んでいってもらいたいといつも願っています。

大学での講義や、卒業論文での聞き取りに来る学生さんにはいつも希望を持っています。卒業論文や大学のフィールドワークでのインタビュー申し込みは、断ったことがありません。
この学生さんが、もしかしたら、無料塾を開いてくれるかもしれない。開いてくれなくても、ボランティア講師をしてくれるかもしれない。講師をしてくれなくても、奥さんや旦那さんや、彼氏彼女が「無料塾でボランティアしようと思うんだけど」と言った時に、「そんな怪しいところでボランティアするのやめとけ!」と言わずに、「昔、声の枯れたおじさんから無料塾の話を聞いたことがある。行っておいで!」と背中を押してくれるかもしれない。これは誰にも否定できない「可能性」です。そう思うと、断る理由は一つもありません。

今年も薬科大での講義を通して、19人の学生さんが無料塾について学んでいってくれました。本当にありがとうございました。

理事長 小宮位之