過日、無料塾を立ち上げたいという方が見学にこられました。その方からメールでこんな質問を受けました。

今私たちは開講しようといろいろ準備をしているのですが、無料塾の必要性について地域の方々に説明したところ、「塾に行く必要があるが経済的に行けない子は、学校に補講などをお願いするべきでは?学校に言っても変わらないなら教育委員会に働きかけるのべきでは?無料塾を立ち上げる前にまだやるべきことがある」という内容のことを言われました。こういう場合、どういう切り返しで無料塾の必要性を説明すれば良いものでしょうか?

たしかに、その方々のいうことも1理も2理もありますね。
私はこのように返信しました。

無料塾の必要性ですが、私なら以下のように切り返します。

「〇〇さんの仰る通りです。ただ、今の中学校の先生の忙しさをご存知ですか?八王子つばめ塾には中学教諭を引退した先生が何人もいますが、異口同音にこう言いますよ。

小宮先生、現在の中学では、放課後にまとまった時間を取って、個別に勉強を教える時間は皆無です。生徒指導や部活指導、事務作業に追われ、そんな時間はありません。もちろん1学期に1回くらいは残らせて教えたりできますが、毎週1時間必ず、みたいな形はとれません。

このように言うのです。こうなってしまうと、学校にフォローされない子は、お金をかけて塾に行かせるか、放置されるかしかありません。そうなると生まれた家の経済状況で人生が左右されてしまいます。東京の通塾率は全国トップクラスで、7割以上の子が通っています。そうすると通える子と通えない子の差は開くばかりです。駅前に塾がどんどんできているのはこうした背景があるんです。

もちろん、行政に働きかけることは大事ですし、私もマスコミに取り上げられるたびに、公教育の充実は常に記者に訴えております。しかし、〇〇さんもご存知のように、行政というのは制度を設計し予算をたて、物事が動き出すのに最低2年~3年はかかります。その間に、今中学1年生の子は、高校受験を迎えてしまいます。今の高校進学率は98.4%で、高校に行かないという選択肢は現実的にはありえません。中卒で働くには大きな困難を伴います。このような中、経済的に苦しい家庭にとって、希望の都立高校に入れるか、お金のかかる私立高校に行かざるをえなくなるかは、とても大きな問題となるのです。

私は一切塾に行かずに大学まで進学しましたので、塾至上主義、塾がなければだめだ!!とは考えておりません。しかし一方で誰かのサポートを必要としている子がいるのも現実です。

実際、行政の中には、民間に委託して公設の無料塾を開き、多くの子たちが通っている市区町村もあります。これは、厚生労働省が半分予算を出して実施している事業です。これは国そのものが公教育の充実を半ばあきらめていることの証左です。このレベルの話を一市民が陳情して明日、どうのこうのなるものではないとお分かりいただけると思います。

しかし、陳情して来月から変わることはありませんが、会場を借り、無料塾を立ち上げれば来月から子どもたちに勉強を教えることはできます。

現在の制度と経済的条件に合わず、狭間にいる子たちを応援しようというのが無料塾なのです。」

 

質問を頂いたことで、私自身もこの問題を改めて整理できました。ありがたいことです。
もちろん、行政の責任や役割を軽視しているものではありません。ただ、自分として、現実にできることからやっていこうという気持ちで運営しております。

事務局長 小宮位之